ゴースト&レディーのあらすじ
ロンドン警視庁には一般公開されていない秘密の博物館「黒博物館」がある。
そこでは、 大英帝国で捜査された全ての証拠品が所蔵されているという。
夜中、所蔵品のひとつである “<灰色の服の男>のかち合い弾”を見せてほしい、という老人が現れる。それは、弾丸と弾 丸が正面からぶつかった鉄のかたまりで、<灰色の服の男>と呼ばれる幽霊が遺したもの だった。
ドルーリー・レーン王立劇場にでるというその<灰色の服の男>は、昼間の舞台中にふら り、と登場する。特に何もするわけでなく、お芝居を見るとゆっくり立ち上がり、ふらりと 壁の中に消えてしまう。彼が出現した舞台は必ず大ヒットする、というジンクスがあり、彼 の登場は舞台関係者を喜ばせた。1856 年 4 月2日、舞台を清掃していた掃除夫が<灰色の 服の男>を発見、そばの座席の上に鉄のかたまりを見つける。それが黒博物館に所蔵されて いる“かち合い弾”だった。
黒博物館の学芸員に対し老人は、“かち合い弾”についての情報とひきかえに“ある頼み”を 聞いてほしい、という。喜んで引き受ける学芸員を前に、老人は姿を変える。彼こそが、< 灰色の服の男>その人だったのだ。
彼の名はグレイ。もとは貴族の代わりに決闘する“決闘代理人”だった。
不運にも命を落と した後は、ドルーリー・レーン王立劇場に取り憑いていた。というのも彼は幽霊になった後、 生きている人間に取り憑いている生き霊が見えるようになっていた。人が人に悪意を持つ とき、妬むとき……。生き霊は攻撃し合い、相手の宿主を苦しめようとするのだ。
美しい芝 居を見るときのみ、そうした生き霊は姿を消す。そのためグレイは劇場に居着き、静かな時 間を過ごしていた。ところがある日、グレイの前に奇妙な女性が現れる。
「私を取り殺して、幽霊。」そう告げる女性は、その身体を生き霊に滅多刺しにされていた のだ。
なぜ幽霊である自分が見えるのか、なぜ自身の生き霊に攻撃されているのか。グレイ は女性に事情を聞こうとするも、生き霊が邪魔して会話にならない。イラついたグレイはつ いに生き霊を殺してしまう。
生き霊から解放された彼女は自身の生い立ちについて話し始 める。彼女の名前はフロレンス・ナイチンゲール。後にクリミア戦争で負傷兵を支え、“白 衣の天使”と呼ばれる女性である。
フロレンスは看護婦になりたいという願いを持っていながら、貴族としての立場、他人の 生き霊が見えることで疎まれてきた過去にしばられていた。苦しむ人々を助けることがで きないのならいっそ死んでしまいたい、と願っていたのだ。嘆き苦しむフロレンスにグレイ は約束する。
フロレンスが最も「絶望」し、苦しみぬいたときに殺す、それこそが最高の「悲 劇」の一幕であると……。
「もう…死ぬのなら…心の中を…全部言ってから死にたい…フローは…謝りません。」死 にたいがゆえに「絶望」を恐れなくなっていくフロレンス。家に縛りつけようとする両親に 強く立ち向かおう。その姿に心を打たれたグレイは、なおも酷い言葉で攻めてくる両親の生 き霊をついに殺し、フロレンスを家から解放する。
思いがけず家を出ることができたフロレ ンスは、シドニー・ハーバード男爵夫人の推薦により「淑女病院」の建て直しへと向かうことに。
そうして、死を願うフロレンスと、殺したいグレイによる奇妙な旅がはじまる……。
ゴースト&レディの作者・魅力
本作は、藤田和日郎氏の「黒博物館」シリーズの第二弾。講談社「モーニング」にて、2014年から 2015 年まで連載された。実在する人物や事件を軸としたダークファンタジーである。 今回の主人公もまた、偉人フロレンス・ナイチンゲールとなっている。今作では、ナイチン ゲールが家をでた 20 代の頃から、クリミア戦争での苦悩を重点的に描いている。
「ゴース トとレディ」で最も魅力的なのは、キャラクターたちである。
冒頭は鬱々として、希死念慮 にとらわれていたフロレンスだったが、グレイと出会った後は、強い信念を持血、自信に満 ち溢れた女性となる。ときおりお茶目で抜けているとこもあるが、頑張り屋な彼女の姿は見 るものを圧倒し、活気づけていく。そんな彼女を支える<灰色の服の男>、グレイもまた圧 倒された 1 人である。
圧倒的強さで生き霊に立ち向かい、またゴーストとしての特性を生 かして病院の調査にも協力するようになる。いやいやながら、フロレンスの頑固さに負け、 尻に敷かれている様はなんとも可愛らしい。クリミア戦争、という重く悲しい時代背景であ りながら、キャラクター同士のやりとりは明るくテンポ感も良いので非常に読みやすい。
また、藤田氏の強く引き込まれる画力についても言及せざるを得ない。グレイが生き霊を 攻撃するアクションシーンは非常に大胆に描かれている。勢いよく生き霊が大破されてい く様子は、読んでいて非常に気持ちがいい。
一方で戦争のグロテスクさは強調して描いてい ないので、戦争漫画にトラウマを抱いている人でも難なく読むことができるだろう。
精密な絵によって進むストーリーに、読者は間も無く引きこまれることになる。実際のナ イチンゲールもまた、人々を奉仕するという強い執念の持ち主だったが、本当にグレイのよ うな存在がいたのではないかと考えてしまう。
ラストシーンはつい涙してしまった。愛すべ きフロレンスとグレイたちの冒険を最後まで見届けてほしい。
チケット
JR東日本四季劇場[秋]
2024年5月開幕予定です。
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